Editor's PickUp
今回紹介するのは大前研一通信。全四十ページ程度の小冊子ですが、その名の通り、大前研一さんの様々な雑誌や文献への寄稿や発言をまとめた冊子になります。大前研一通信。人物の名前がそのまま冊子の名称になっているところがまず凄いですね。「大前研一」という名前がいまやブランドになっていることが分かります。
今回の特集のタイトルは「日本の真実」。そのタイトルが示すとおり、日本の現在の姿への批判に満ちた記事内容になっています。
まずトップには、「リーダーが分けた骨なしの日本、昇竜の韓国」という記事が掲載されています。リーダー不在の日本に対して韓国は李明博という元企業経営者の大統領の登場により大きく進化した、という内容のものです。記事の中では一人のリーダーの出現により大きく国が進歩した例として、サッチャー首相の英国、レーガン大統領の米国、メルケル首相のドイツなどを挙げています。
本記事には同意できる箇所が多くあります。ころころと首相、政権与党が変わっていく日本では一つの方針を立てて、その方針に基づいて国家を運営していく、ということが非常にやりにくくなっていると感じます。また、真のリーダーの資質を持った人間が現れたとしても、現状の政局の様子では潰されてしまうのではないでしょうか。何か政治の根本から立て直すことが必要かと感じました。
また、ここでも紹介した有名なビジネス書「ビジョナリーカンパニー」では、「企業にとって必要なのは優秀な経営者ではなく、優秀な経営者を生み出し続ける仕組みだ」といったことを言っています。企業を国家と置き換えた場合、常に優秀な経営者=リーダーを生み出すにはどうすればいいのでしょうね。またそれを成し得ている国家はあるのでしょうか。とても気になるところです。
他にも現状の日本への批判に満ちた記事が続きますが、印象に残ったのは「世界経済の地図から消えていく日本とトキの姿」という記事と、「日の丸エレクトロニクスの手中に最後に残るのは「匠の技」だけだ」という記事です。後者はこれまでは経済大国の名をほしいままにしてきた日本のものづくり産業も、いまや中国や台湾の企業に抜かれてしまっている、という内容です。特に印象に残ったのは、日本は高度成長期に培った企画から研究開発、設計、製造までを全て行なう「垂直統合モデル」を捨て切れていないことが衰退の原因だ、という言葉です。これは製造業に携わっている身としては痛感します。どこまでも各部門の「コスト削減」に拘り、大胆な体質改善に努めることができていない、というのが実情だと感じます。これも製造業におけるリーダー不在が一因と言えるかと思います。
他にも赤字国債に触れた記事や法人税率の引き下げについて記した記事などがありました。しかし、これらの記事を読んでいると「今の日本はダメだな…」と本当に暗澹とした気持ちになってきますね。
本書を読んでいて感じるのですが、日本の経済が低迷している根本の原因は日本人のほとんどが「将来に希望を見出せていない」ということだと思います。将来にあるのは不安だけ。だから将来に備えて今あるお金は貯蓄に回し、その結果消費が低迷して経済も低迷する。税収も減るから政府の財政も逼迫し、政府も思い切った手が打てない…。その結果、国民は将来に希望を持てない。そんな泥沼のループに今の日本ははまっている気がします。
また、やはり日本人は他国の状況にとても疎いんだろうなあ、ということも考えました。現在、韓国や台湾、中国で起きていることをテレビや雑誌で知ってはいても、まさに今そこにある危機、として考えられている人は多くはないのだろうと思います。これは高度経済成長を経て、日本人が「そこそこの豊かさ」を手に入れたことも理由の一つかと思います。「確かに日本経済は傾きかけているけれど、まだうちの会社は大丈夫。だって十分に豊かな生活をおくれているのだから」。一億総中流主義で共産主義国家よりも共産主義国家らしい国家体質の影響なのでしょうね。
日本がこのような状況から抜け出すには何が必要なのでしょうか?過去に日本は黒船の来航とGHQによる占領と言う外圧を受けることで国が大きく進歩してきました。今回も大規模な外圧が進歩のためには必要なのでしょうか?いい加減、そんなもの無くても成長できる国になりたいところです。
本誌は日本の抱える課題を浮き彫りにし、それに対する解決策を提示していきます。社会の現状と課題を認識し、いろいろなことを考えるきっかけとなる冊子だと思いました。
大前本は『パスファインダー』『BBT on DVD 大前研一ライブ』に続いて3度目。 いつもありがとうございます。
今回の『大前研一通信vol.188』は、「日本の真実PARTIII」と題して、主にnikkei BP net「「産業突然死」時代の人生論」 、週刊ポスト「ビジネス新大陸の歩き方」などですでに公開された記事を再録している。
大前氏の政治・経済論説をまとめ読みできるわけで、まずは氏の主張を整理してみた。全編を通して浮かび上がってくるキーワードの最初の一つは「憂国」だった。
氏は日本の何を憂いているのか?あらゆる分野における日本の凋落を憂いているのだ。
例えば、元首が誰なのかも自分の国をどのように守るのかも定めていない憲法であり、無知な政治家が選挙目当てにもてあそぶ税制であり、没落への道を突き進む財政であったりする。
また、垂直統合モデルに固執し縮み思考に染まった結果、韓国中国に圧倒される企業であり、外国の若者に見向きもされない大学である。
日本を「さぞかし食べやすい“骨なし国家”」になると称し、絶滅が危惧される“トキ”に例える。
「憂国」はすなわち「私たちの人生を憂う」ということだ。
これらの問題の原因は何か?そこで二つめのキーワードが登場する。「リーダー」だ。
上に示したような歯がゆい日本となったのは、リーダー不在に帰着すると大前氏は主張している。今の日本には組織を変える力を持った人材があらゆる分野でいない。指導者がいない国。それが今の日本なのだ。リーダー不在とは、本質的な問題解決ができないまま放置されるということ。
今の教育のままではリーダーの育成はできないと考え、それがビジネス・ブレークスルー大学へとつながっている。
以上、強引に内容をまとめてみた。さて、このような大前論に対して、「のんびりと、そこそこ豊かに暮らせばいいじゃないか。なにもそんなにガツガツしなくても」という考えもあるかもしれない。没落はいけないことなの?と。
それはおそらくいけないことなのである。資本主義の世界において、富は中心にしか集まらない。20世紀、日本は少なくとも極東の中心だった。だから豊かな生活を享受できた。しかし中心からはずれたとたん、富はみるみると減っていく。「そこそこ豊か」は楽観的な幻想なのだ。集まってくるポジションから吸い取られる立場へ。それに耐えられるのか、ということだと思う。
今の日本が一番やってはいけないのは、このまま低迷を許容することだ。
受け取り方は人それぞれだろうけれど、かつて大前研一ファンだった私には、大前節の叱咤激励がビシビシ伝わってくる一冊であった。
しかし、現実問題として、傑出したリーダーの登場を待っているわけにもいかない。どうすればよいのかは自分で考え行動しろということなのだろうけれど、最後にちょっとしたヒントが。それは「日本人の「セカンドライフ改革案」」なる提言。漠としたイメージではなく、そろそろ真面目に考えないとね。
>>> http://suguri-bingo.jugem.jp/?eid=446
毎回、大前研一氏が『プレジデント』、『nikkei BP net』、『月刊ベルダ』、『週刊ポスト』など各紙に寄稿した記事を凝縮した『大前研一通信』。各記事には内容的には重複しつつも、異なる角度から分析が行われている部分も多く、それら一度に読み比べることで重要な論点が幾つか見えてきます。
バンクーバーオリンピックで、日本は合計5つのメダルを獲得しながらも、金メダル獲得を逃し、それとは対照的に躍進を見せた他のアジア諸国。大前研一氏は、この出来事を象徴的に思い返しながら、日本の政治・企業・産業界でのリーダーの不在、「垂直統合モデル」に固執し、無理なコストカットにより総合的な競争力を失った日本のエレクトロニクス産業の低迷を厳しく指摘します。
一方で、中国・韓国・台湾におけるエレクトロニクス産業の目覚ましい発展にの裏に、日本人の技術力、そして人材の流出を見ています。その上で、これらアジア企業との協力の道を模索しています。
政治問題の側面では、自衛隊問題、核持ち込み問題、国家元首の規定といった事柄に対して、自衛隊の「軍」としての合法化、核は現実的には持ち込まれているという認識に立ち、核の問題は外交問題ではなく、軍事問題だという視点の転換など、大胆な提案を含んだ広い視野からの分析が行われています。それと併せて、「一新塾」卒業生である小後遊二(こうしろゆうじ)氏による、大胆な政策提言記事「民主党の政策」も途上国へODAなどの短期支援を行うのではなく、長期的な資金・人材・技術支援を行うことの有効性、「推薦入試制度」廃止を含めた大学改革論、全国民への個別識別ID発行により行政処理負担の軽減、電子投票システムの実現など、実現性はともかくとして、その場しのぎ的な政策決定に対する刺激的な提言となっています。
最後の「日本人の「セカンドライフ改革案」」では、定年後の時間が8万7600時間にも及ぶことを指摘した上で、定年後の夢を20個持ち、定年後を視野に入れた資産設計、そして日本円の強みを生かした外貨投資のススメが提案されており、定年後を見据えた人生・資産設計のビジョンを持つことの重要性を改めて感じさせられました。
日本の現状に対する辛口の分析には、暗いものを感じさせられる一方で、技術畑出身の大前研一氏ならではのグローバルな視点に立った政治・ビジネス戦略の妙案の数々に驚きと希望を感じさせられました。